指先からはじまるSweet Magic
「……幼なじみ、ねえ……。なあ、青木。お前、そういう仕草、男の前で無防備に見せない方がいいぞ?」

「え?」


何を言われたのかわからず、私は背筋を伸ばしながら首を傾げて見せた。


こういうの、と呟いて、市川君がやけに妖艶な手つきで自分の唇に触れる。
真昼間のうどん屋で、いきなり昼ドラ的な妖しさが漂って、私は思わずドキッとして目を瞬かせた。


「仕事中にボーッとするほど考えてたのは、その幼なじみのことか。唇触ってぼんやり……とか、なんか超意味深なんだけど」

「えっ!? な、何言ってるのよっ」


慌てて目を剥いてそう抗議しながらも、さっきまで無意識に指で触れていた感触が唇に残っている。
そして、私を真似た市川君の仕草ドキッとしてしまったってことは……。


私の無意識の行動がどんな風に見えてしまったのか。
それを意識して、穴を探して入りたい気分になった。


熱い、を通り越して、多分今の私の顔は茹でダコのように蒸し上がってるに違いない。
クックッと、市川君が噛み殺した笑い声をあげた時、オーダーした料理が運ばれて来た。


私は釜玉うどんに舞茸の天麩羅。市川君はカレー南蛮だ。
このクソ熱い都会のランチだというのに、ホカホカと湯気を立てる丼が二つテーブルを飾る。


「まあ、それなりに青木を良く知ってる男なら、完全に無意識の行動だってわかるだろうけど。その幼なじみが何か『転機』を迎えてるなら、慎重になった方がいい」


カレー南蛮に更に七味を振りかけてから、市川君はそう呟いた。
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