指先からはじまるSweet Magic
「え?」

「転機を迎えた男の行動は、何も結婚を真剣に考えるだけじゃない」


すぼめた唇でうどんを啜り上げてから、市川君が口をもぐもぐさせてボソッと言った。
私は、舞茸を千切る箸を止めた。


「たとえば……現状を打開する、とか。ダイナミックなイメチェン、とか」

「え……?」

「男って女よりも臆病だったりするんだよ。勢いつけないと、大革命は起こせないって言うか」


俺もそうだったしな、と、市川君は苦笑した。


それって……追い風に煽られたまま突っ走ってしまえ、ってことなんだろうか。


それはそれで圭斗らしくないな、と思いながらも、私は市川君の言葉を頭の中で反芻していた。


ダイナミックなイメチェン。
猫みたいな圭斗が、野獣に変わる。


あまりにぶっ飛んだ発想に、さすがに私も苦笑するしかなかったけど……。


『猫』って。分類の仕方によっては、トラやライオンと同じ。
立派な『獣』だってことをチラッと思い出していた。


たとえば、欲情のスイッチが切り替わったとしたら、圭斗の瞳も獣の光を帯びるんだろうか。
人懐っこくてキラキラした圭斗の瞳に、男っぽくギラギラした妖しい光……。


そんなことを想像して、なんだか背筋にゾクッとむず痒い感覚が走るのを感じた。
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