指先からはじまるSweet Magic
――圭斗の、ばかっ……!


粟立つ想いを抑えられず、私はただ胸の中だけで圭斗を罵った。


こんなに仲のいい『彼女』がいるのに、どうして私にキスしたりしたの。


どうしようもない屈辱を感じて、私は無意識に一歩後ずさった。
途端に、フローリングの床がギシッと音を立てて、ハッとしたように彼女が私を振り返った。


「……あ」


フワッと、短い髪を揺らして、彼女が私を真っ直ぐ見つめる。
その瞳が遠慮なく私の髪の先から爪先まで観察するのを感じて、私はただ身体を強張らせた。


「……ん? 何? 細川」


それが、彼女の名前なのか。
手を止めた彼女に不審そうな声を上げて、圭斗がゆっくり身体を起こした。
濡れた髪を自分の手でギュッと水分を落として、髪を掻き上げながら私に視線を向ける。


そして。


「なっ……。里奈っ?」


ここに私がいるのは相当想定外だったんだろう。
圭斗は素で目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。
そして、圭斗の声に、細川と呼ばれた彼女が大きく目を瞬かせた。


「ごめんなさい。……私……」


二人に内緒でそっと偵察に来たつもりだったのに、こうまでしっかり気付かれてしまったら、なんて言い訳をしていいのかわからない。


ただ気まずさを感じながら、私は唇を噛んで俯いた。


「あの……塩入さんの幼なじみさん、ですよね?」


この場の誰よりも先に平静を取り戻したのは、細川さんだった。
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