アサガオを君へ
ピストルを持った先生が、生徒だけに聞こえるような声で言った。


「第一走者は前に出てください」


私は一番手前のコースに出る。


チラッと見た保健室の窓からは、夏樹がこちらを見ていた。


少し運動場から離れている保健室は、周りには誰もいなかった。


私は先生の合図があるギリギリまで夏樹を見ていた。


夏樹も私のことを見ていた。


視線が絡み合う間、私たちだけしかいない気がした。


静かで、何もなくて、私と夏樹だけ。


あるとしたら、この照りつける太陽の熱気だけ。


額からツーッと汗が一筋流れて頬を伝った。


先生がピストルを構えた。


私はギュッとバトンを握りしめると、真っ直ぐと前を向いた。


ピストルはパンッと大きな音を立てて、煙を上げた。
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