アサガオを君へ
何十分たったのか確認するために顔を上げると、そこに夏樹はいなかった。


「…え?」


どうして?トイレ?


私、夏樹がベッドから出たことに気付かないくらい本に熱中してた??


キョロキョロっと辺りを見回したとき、大きく開け放たれた窓の前に夏樹がいた。


ゆっくりと振り返った夏樹は、安心するほど夏樹だった。


細い体も、私を見る目も。


夏樹は黙ったまま私を見つめている。


私は微笑んだ。


「夏樹」


いつも私が笑ったら夏樹は笑ってくれた。


夏樹が笑ったら私も笑った。


でも、夏樹は笑ってくれない。


私は、これでもかってくらい微笑んで見せた。


でも、やっぱり笑ってくれない。


私は途端に不安に襲われて、少しだけ固い声をあげた。


「夏樹!」
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