坂道では自転車を降りて
 彼女はゆっくりときれいなフォームでボールを投げた。彼女のお父さんはどんな人なんだろう。すこしずつ遠ざかりながら投げ合う。会話も同時にキャッチボールする。
「高校受験の前日に家の前で弟とやってて、お母さんに怒られた。突き指したらどうすんのっって。」
「そりゃそうだ。へー。弟がいるんだ。」
「うん。今、中2」
「野球やってるの?」
「ううん。今はテニス部にいるよ。」

 だんだん、距離が開いて、声が届かなくなる。っていうか、君の球、結構速いぞ。やっぱりボール投げじゃなくてキャッチボールだろ。最初は山なりに投げていた俺の球も、徐々に直球に近くしてみた。捕球はあまり上手くないな。ってか右手で捕ってる。ゴムボールしか投げた事のない人の捕り方だ。それでも大した運動神経だ。

「ねー。本気で投げていい?」
「いいよ。」
今まで本気じゃなかったのか。。
 マウンドのピッチャーのように左脚を上げた投球フォーム。真剣な顔で投げた一球は、横にそれて俺の後ろへ飛んで行った。速いけど、ひどいノーコンだ。
「ごめーん。私、コントロール悪くて。」
俺は走ってボールをとりに行く。
「俺も本気で投げるぞ。」
「えーっ。捕れるかな。」捕れなくてもゴムボールだ。怪我はしないだろ。突き指するなよ。
俺の本気の一球は彼女の手にすぽっと収まった。
「あー、怖かった。でも捕れた。やった。」
「よくできました。」
「神井くん、顔が怖いよ。」
そりゃ、スミマセン。

女の子って、もっと男と違う生き物かと思っていた。案外、こんなことも楽しんでやるんだ。
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