坂道では自転車を降りて
「そろそろ戻る?私、夕方にもう一度、来たほうがいい?他にやることない?」
「あー。。。もう来て貰わなくても、本は書けると思う。」
「よかった。」
彼女はあらためてホッとした顔を見せた。

「でも、君に会いたいな。いい?」
俺が言うと彼女は不意をつかれたのか、真っ赤になって俯いた。
「来てくれる?いや、俺が会いに行ってもいい?」
顔を覗き込むと恥ずかしがって逃げる。さっきまで怖い秘書みたいな顔してたのに。可愛くて面白い。

「そんな。私が来るよ。本が、書けたら。ね。」
「書けないと、会ってくれないの?」
耳元で囁いてみる。
「そんなことないよ。私も、、、会いたい。けど。」
「よかった。」
ゆっくりと、彼女の手をとる。彼女の細い手は冷えきっていた。
「冷たいね。」
俺が息を吹きかけて暖めてやろうとすると、彼女は慌てて手を引っ込めてしまった。
「何?どうしたの?」

もう一度、手を取ると、また、彼女の手と身体がふるふると震えだした。
「やめて。もう無理。
目をそらし、頬を紅く染めて、瞳がうるうると揺れている。
「ごめん。その、、やっぱり、本、書き終わってからにしない?」
「。。。俺、夕方まで頑張って書くから、今日、もう一回、会ってくれる?」
「うん。だから、今は離して。」
真っ赤な顔で訴える。

「なんで?どうしたの?」
分かっているのに聞いてみる。なんて答えるかな。
「分からない。どうしたんだろう私。急にドキドキして、手がっ、震えるの。」
思わず笑ってしまった。本当に素直と言うか、こういうの慣れてないんだ。可愛いなぁ。

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