坂道では自転車を降りて

「俺、大野先輩と写真部の部室で待ち合わせてたの忘れてて。神井先輩が帰ってから思い出して、慌てて写真部行ったんです。」
 まだ、何も聞いてないのに。織田は勝手にしゃべり始めた。
「沼田先輩と3人で、この前の写真見てもらって、文化祭に出すヤツ決めてたんですけど。途中で先輩が気分悪くなっちゃって。先輩、帰るんですよね?大野先輩を送って貰えませんか?」
 この前の写真とは、織田と彼女だけで撮ったやつの事だろう。多恵は先週、沼田に同席してもらって一緒に見たと言っていた。俺が見せてもらっていないのも気になるが、あらためてもう一度3人で見る必要があったのか?それに、多恵を教室から呼び出したヤツは誰なんだ。沼田はクラスメイトだ。織田だったのか?いや、織田は部室にいた。

「今日、多恵を呼びに行ったのは、誰?」
織田は一瞬、言葉に詰まった。保健室の空気が張りつめたみたいに、動きをなくした。
「神井くん。」
唐突に彼女が口を開いた。織田が心配そうな表情で彼女を見る。
「帰りたいの。送ってもらえる?」
ベッドから降りて鞄を手に持った。話の腰を折るのも、彼女らしくない。違和感が増す。織田は助け舟を出されて心底ホッとしている様子だったが、俺は多恵を待たせてもう一度聞いた。

「誰?」
「あ、っと、今西です。」
本当か?それに今西もいたなら、3人じゃなくて4人だ。
「最近、よく教室に来てたって、聞いたけど。」
「ねぇ。私、早く帰りたい。」
多恵が俺の腕を引っ張った。織田も多恵も、何もかもが不自然だ。俺は織田の返事を待った。

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