坂道では自転車を降りて
誰かが俺の頭に触れた。目が覚めたけど、そのまま動かずにいた。ここはどこだっけ。そうだ保健室だ。彼女が俺の髪を撫でているんだ。柔らかい指の感触が気持ちいい。俺は彼女の手を握っていた。彼女が俺の手を取ったのか、俺が握ったのか、覚えていない。俺の肩には大きめのタオルがかかっている。養護教諭がかけてくれたのか。
「神井くん。」小さな声で呼ばれたけど、答えなかった。まだぼぉっとしていたのもあるけど、このまま手を握っていたかった。
「ごめんね。」彼女は俺の頭を撫で続けた。
「上手にできなくて、ごめんね。私、もう無理みたい。友達に戻ろうよ。」
無理って、何が?どうして?思わず全身に力が籠もる。彼女の手が一瞬止まって、また俺の頭を撫で始めた。チャイムがなって廊下が少し騒がしい。
俺の頭に触れる指先は、優しくて、温かくて。いつまでもこうしていたい。でも、今だけじゃなく明日もだ。
「なんで?」
俺はゆっくりと顔をあげた。悲しそうな顔の彼女と目があった。
「あの時、俺が君を抱き締めなかったから?」
彼女はきょとんとして、考えるような仕草で首を傾げ、少しして横に振った。
「俺が、嫌になった?」
また首を横に振る。
「だったら、どうして?」
彼女は困った顔で曖昧に笑った。
「ごめんね。」
「本気で言ってるの?」
彼女はこくりと頷いた。俺は耐えきれなくなり、立ち上がりながら握っていた手を引いて、彼女を抱き寄せた。