坂道では自転車を降りて

「なんだよそれ。聞いてないよ。」
 北村さんの言う彼女がトロいという言葉も全然ピンと来ない。勉強も運動も人並み以上、絵も描けるし歌だってうまい。俺の脚本に的確な意見を言うし、会議では彼女のひと言が大きく流れを変える。後輩にだって信頼されて、部では誰もが一目置いていた。俺の事だって何でもお見通しだ。でもそうだ。先輩や川村にはいつも子供扱いされていたし、後輩達も信頼はされてたけど、よくからかわれたりもしていた。結構ドジで世間知らずで、自分の事が分かってない。言われてみればトロい。なのに俺はいつの間にか彼女に魔女のようなイメージを持ってしまっていた。

「そんなのあんたに言うわけ無いじゃん。あんたもドタキャンされて腹が立つのは分かるけど。痴漢された直後に喧嘩してたあんたに会うなんて無理でしょう?だからそこはもう許してあげてよ。それに、あの子と別れたくないなら、怒ったりしないで、ちゃんと慰めてあげなさいよ。」
「。。。。だって慰めようにも、むこうが会ってくれないんだ。」
「あんたと別れたいのは、約束を守れないからだって言ってたよ。」
「昨日一緒に帰る約束のことか?一度、約束破ったくらいで?」
「何度もって言ってたよ。上手く出来ないんだって。また理不尽な要求して、出来ないからって責めてるんじゃないの?」
「彼女は約束をやぶった事なんかなかったよ。昨日が初めてだ。それに昨日だってちゃんと連絡はくれたし。確かに俺は電話に出た時、すごい不機嫌だったと思うけど。その前から、俺を見て逃げたりしてて、訳が分からないんだよ。」

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