坂道では自転車を降りて

「とにかく、あんたに会うのが怖いんだって。どうして?って聞いても、混乱しちゃってて、自分でも訳が分からないみたい。ジョーがあんな風に混乱して泣くなんて、私だって初めてだよ。あの子は結構よく泣くけど、あんな訳分からない泣き方しないわ。ねぇ、もういいかげん別れてあげたら?ジョーはあなたが好きなんだろうけど、多分、あなたとは合わないのよ。見てて痛々しい。」
「合わないとはなんだよ。何も知らないくせに勝手な事言うなよ。俺達はもう半年以上続いてるし、上手くいってた。」
「上手くなんか行ってないでしょ。いつもジョーがあんたの言いなりになって、我慢してるだけじゃないの。」
「我慢なんかさせてないし、我慢なら俺だって死ぬ程してる。」
「だから合わないって言ってるのよ。」
「ちがうっ。」
思わずカッとなって、電話を切ってしまった。

 教室で不格好に頭を下げて、彼女と帰れるように段取ってもらったのは今朝の事だ。北村さんは彼女が俺を怖がっていると言った。俺達は合わないと。本当にそうなんだろうか。

 気付くと彼女はもう豆粒くらいになって、声も届かない程、遠く離れてしまっていた。このまま、別れてしまうのだろうか。今、見失ったら、二度と会えないような気がした。俺はペダルを踏み込んだ。どうするんだ。また彼女の隣を歩いて、同じ会話を繰り返すのか。考えろ。考えろ。どうしたら、彼女は俺に話をしてくれるんだ?

 自転車は彼女の横を通り過ぎてから停まった。振り返って見ると、彼女は立ち止まって、無表情で俺をみていた。青白い顔が一瞬、笑った。幽霊が憑いてるみたいですごく気持ち悪かった。俺は、また前を向いて走り去った。彼女は走り去る俺の背中を見て、何を思っただろう。

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