坂道では自転車を降りて
自転車を押したままでは、彼女に触れる事ができない。織田に言われた通り、手ぐらい握っておかないと、また逃げられる。あの時、手を握って話していたら、あの時、抱き締めていたら、少しは結果が違ったはずだ。カーブを曲がり公園の駐輪所まで走って自転車を停めた。鞄も籠の中に置いたまま、両手をあけて元来た道を歩いて戻る。
彼女を抱き締めて、取り戻すんだ。
歩いてカーブを曲がると、路肩にうずくまっている彼女が見えた。しまった。具合が悪くなったのか。昨日の今日だ。こんな暑い中を歩かせるんじゃなかった。慌てて駆け寄る。
「多恵。大丈夫?具合悪いの?」
突然目の前に立った俺に彼女は驚いて顔を上げた。俺を見上げた瞳は紅く、涙が溢れていた。彼女はすぐに俯いて首を振った。よかった。泣いていただけだ。
「どうして、俺に何も話してくれないの?」
「。。。。。」
「帰りの電車で痴漢にあったんだろ。一昨日。」
「なんで話してくれないの?」
俺は黙って彼女の腕を掴み、立ち上がらせると、手を引いて歩き始めた。
「今西の事だってそうだ。なんで、話してくれなかったの?」
植え込みの間から公園へ入る。広い芝生を横切って、日陰を求めて東屋へ向かう。
「君が守れなかった約束って、何のこと?」
「そんなに俺が怖い?」
「。。。怖くないよ。神井くんは優しいよ。」
「だったら、どうして?」