坂道では自転車を降りて

俺はゆっくりと磔にされた彼女を眺め、優しく触れた。
「怖い?」
聞くと、こくこくと頷く。もしかして怖くて声がでないのかな。そんな彼女が何故だか無性に可愛くて、思わず笑いが漏れた。やがて彼女は小さな悲鳴をあげながら、目からぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「多恵、大丈夫?」
 囁くように聞くと、彼女はすがるような瞳で俺を見て、涙の雫を飛び散らせながら首を振る。その表情、仕草、全てが、もうどうしようもなく可愛くて、俺もどうしたらいいのか分からないよ。

「ねぇ、キス。しようよ。」
 俺が言うと彼女は涙の溢れる瞳を閉じ、餌を貰おうとするひな鳥みたいに、白い首を伸ばして俺の唇を求めた。震えている。きっと怖くてたまらないんだろう。
「神井くん。神井くん。あぁ。」
 何度も俺の名を呼んだ。彼女が俺の名を呼ぶたびに俺の血が沸騰しながら、頭と股間にすごい勢いで流れ込む。心臓が全力で拍動する。自分の発する獣のような息づかいが、やたらうるさくて、彼女の声が聞こえない。頭がしびれる。全身が燃えてるみたいに熱い。

「多恵。俺、変態かも。」
「そうなの?」
「俺の事好き?」
「好きだよ。」
「変態でも好き?」
「。。。わからない。でも、神井くんが好き。」
好き。その言葉が俺を安堵と幸福感でいっぱいにする。
「多恵。」
小さな頭を抱き寄せた。柔らかくてつるつるの髪の感触。甘い吐息。

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