坂道では自転車を降りて

 俺は絶句してしまった。なんだよ。そのわけの分からない告白は。会いたいのに会いたくないとか矛盾だらけだ。彼女は真剣そのもので、目に涙を溜めて話していたけど、なんだか俺は可笑しくてたまらなくなって来た。それは確かに恋だ。彼女は俺に恋している。そんな気持ちを俺にストレートに話してしまう。駆け引きなんか何もない。
「ふは。。ははは。。ははははは。」
嬉しいのと困ったのと可笑しいのが混ざって、変な笑い方になった。笑ったら身体から力が抜けた。

 彼女は顔をあげ、怪訝な顔つきで俺をまじまじと見た。彼女の顔には「なんで笑うの?」って書いてあった。でも、さっきよりも少し落ち着いたように見える。俺は苦笑いしながら言った。
「笑ってゴメン。でも、なんか、嬉しいというか可笑しくて、さ。」
彼女は困ったような怒ったような悲しいような複雑な表情だ。

「多恵、おいで。抱き締めさせて。」
「でも。」
「大丈夫だから。おいで。」
「どうして大丈夫なの?」
「理由なんかないよ。感じるんだ。そして信じるんだ。大丈夫だって。」
彼女はまだ戸惑っている。
「わかった。俺が捕まえてあげる。」
俺は笑いながら彼女をもう一度抱き寄せた。彼女が「でも」とかなんとか言ったけど、無視して唇を塞いだ。相変わらず甘い香りがする。こいつは一日中飴玉でもしゃぶっているのか?

「また独りで勝手に不安になって、俺から逃げようとしたな。そういう馬鹿な娘にはお仕置きだ。」
 彼女は訳が分からず、おろおろしている。俺は彼女を抱き締めたまま脇をくすぐった。
「やっゃあん。やめっ ひゃぅ。ん。いやぁだぁぁん。」
声は笑ってるけど、顔は完全に泣いてる。彼女は苦しがって暴れた。ひとしきりくすぐったら、逃がさないようにまた抱きしめる。

< 734 / 874 >

この作品をシェア

pagetop