坂道では自転車を降りて
「おや。神井がカワイコちゃんと話してる。大野さんに言いつけちゃうぞ。」
横から主演女優が割り込んできた。彼女は飯塚の毒々しい口紅の舞台メイクに、とても驚いて目を丸くしていたけど、なんとか飲み込んで話を繋げた。
「さ、さっきの主演の方ですね。とても素敵でした。面白くて。」
「でしょ?俺、女優目指してるから。」
飯塚は舞台でのテンションのまま、ガハハと笑った。
「その衣装、本物ですね。それにサイズがピッタリ。手作りなんですか?」
「そう。女の子達が作ってくれたの。すごいでしょ。」
「すごいです。あの、主演されたあなたも。本当に。」
「俺、飯塚。神井、この子は?」
「あ、東です。」
東さんは自分で自己紹介を始めた。飯塚に興味がわいた様子で、ずいぶん話が弾んでいる。
「何、神井に会いにきたの?」
「あの。友達に誘われて。」
彼女は山本さんと来たのだが、原のクラスの番組と俺達の劇の上演時間が被っていたので、山本さんと別行動になったらしい。その後、原は山本さんと友達としてずいぶん親しくやっているらしいことは聞いていた。
「私は神井さんのクラスの劇が見たかったので、こちらに来たんですが。本当に面白かったです。それに、皆さんとても楽しそうで。あ、スミマセン長く引き止めてしまって。お邪魔いたしました。私そろそろお暇させていただきますね。お疲れさまでした。」
「あぁ。わざわざ見にきてくれてありがとう。」
「いえ。本当に素敵でした。お話も主演女優さんも。」
彼女は「ごきげんよう」と言って帰って行った。飯塚が女装姿のままニヤけていて、不気味だ。