坂道では自転車を降りて

 飯塚と技術室へ戻り、着替え終わったヤツがメイクを落とすのを手伝う。飯塚は素人なので仕方ないとは言え、男同士でこの構図は、うーん。
「なぁ、あの子、可愛かったな。清楚なお嬢様そのものって感じで。ごきげんようだってさ。」
「まぁ、お嬢様なんだろうな。」
「連絡先とか、お前知ってるの?」
飯塚の目が♡になっている。確かに東さんは飯塚には刺激が強かろう。
「一応ね。」
 さっきの感じだと、もしかしたらあっちから連絡がくるかもしれない。彼女は意外と積極的な子だ。

「俺、もうこのあとは一直線で勉強してさ、大学行ってから、可愛い彼女作ってって思ってたんだけど。高校生活が部活一色で、あとは結局、他人の彼女を眺めてただけってのも、ちょっと虚しいかなって思ってたんだよね。」
「もう10月だぞ。正気か?」
「んー。。やっぱマズいかなぁ。」
「俺は、知らんぞ。」

 恋に落ちる瞬間なんてのは、俺達の都合と関係なくやってくる。じわじわと知らぬ間に溺れていることもあれば、どぼんと落ちることもある。生駒さんにしても同じかも知れない。失恋直後なのにとか、受験のまっただ中だとか、つきあってる彼女がいるとか、そんなのは、多分、何も関係ないんだろうと思う。その芽生えた想いを大事にするやつもいれば、気付かないフリをして、やり過ごすやつ、無理矢理もみ消そうとして、いつまでも痛む傷を作るやつもいる。でも、どんな恋も心に何かしらの痕を残していく。
 
< 804 / 874 >

この作品をシェア

pagetop