坂道では自転車を降りて

 どうしよう。聞いてみようか。悩んだ挙げ句、「あのさ、」と声をかけると、彼女が「何?」と俺の顔を見た。
「あのとき。。。いや俺も、織田からだいたいの話は聞いてるんだけど。君の口からもう一度聞いても良いかな?何があったの?なんで君が謝るの?」
「え。。」
「いや、君が嫌でなければ、で良いんだけど。」

 多恵は少し困った顔をしたが、そうこうしている間に写真部の展示室に着いてしまった。まずかったな。事情を聞くのは写真部の用が終わってからにしてやれば良かった。
 俺は笑顔を作って、入り口で立ち止まった彼女の肩をしっかりと抱いた。わずかに抵抗する小さな肩に、少し力を込めて入室を促す。大丈夫。あの時、何があったとしても、俺の心は変わらない。

 展示室には織田がいた。
「先輩、来てくれたんだ。」
「うん。織田くんの写真見たかったし。沼田くんや今西くんのも。」
 彼女は、俺と手を繋いだまま展示室を一通り丁寧に見て回った。織田は一歩離れて、俺達について歩き、彼女が時々感想を伝えた。彼女を撮った写真の前では、彼女は足を止めず、かといって素通りするわけでもなく、他の写真と同じように見て、そして次へ進んだ。

一通り見終わると彼女は織田に尋ねた。
「今西くんは、いないの?」
「今西は今日は午前でしたから、あとは片付けの時まで来ないと思います。」
「そうなんだ。感想ノートみたいなの。ある?」
「ありますよ。」

 織田がノートを示すと、彼女は時間をかけてノートを書いた。わざわざ来て何を書くのかと思っていたけど、普通に感想だった。感想を書き終わると、俺を見て笑った。気が済んだらしい。
 2人で手を繋いで展示室を出ると、彼女がほっと息を吐いて、頬を緩めた。

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