坂道では自転車を降りて

「だから、元はといえば、私がカメラを落としたのが悪かったの。今西君にはっきり断らなかったのも。2人きりになったのも。君にあんなに言われてたのに。」
「ちょっと小突かれたくらいで転ぶような君じゃないだろ。押し倒されたり殴られたりしたんじゃないのか?」
「ちがうちがう。ちょっと強く肩を押されて、足が椅子にかかって転んだだけなの。それに転んだのは大して痛くなかったんだ。それよりも、今西君がすごい剣幕で、驚いたと言うか、怖くて。」
「カメラを落とされたからって、女子を突き飛ばすようなヤツに謝る必要なんてあるのか?」
「でも、彼にはとても大事なものでしょう?すごく高いし。私がもっとしっかりしていれば、女でなければ、ちょっとした諍いで終わったはずなのに。」

 女でなければ呼び出されもしなかっただろうけどな。
 部室へ行った多恵にも非はある。確かにそうだ。だが、俺は今西を許す気にはなれなかった。しかし、それはそれとして。
 彼女は転んだだけだったのか。怪我をした様子もなかったし、なんだかホッとして力が抜けた。

「そっか。そうだったのか。」
「ごめんなさい。私、本当に馬鹿で。何度も心配かけて。本当にごめんなさい。」
 彼女はまた下を向いた。浅くて速い呼吸。泣くのを必死で堪えている。正直、いいかげんメンドクサイ。泣くのはもう勘弁してほしい。
「わかった。もういいよ。いや、俺てっきり。その。」
「?」
「いや、なんでもない。」

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