坂道では自転車を降りて

 俺は残り少なくなったコーラを飲んだ。彼女のオレンジはとっくに無くなって、氷が溶けてたまった水を、音をたててストローで吸った。俺達はただ無言で見つめ合った。彼女も俺もただ静かに笑って、飽きず相手の顔を眺めている。お互いどんだけ溺れているんだろうと思う。

「そうだ。これ、少し前に見かけて、買っておいたんだ。」
俺は赤くラッピングされた包みを鞄から出した。
「えっ。」
「クリスマスとは関係なく、貰って。」
「でも、プレゼントはしないって約束してたのに。」
「そうなんだけど、偶然見かけて、買いたくなっちゃったんだ。」
「えー。なんか、、神井くんだけズルい。私何も用意してない。」

案の定、彼女はふてくされて受け取ってくれない。手をテーブルの下に降ろして、横を向いてしまった。
「本当にタマタマなんだ。約束の事は分かってたんだけど。」
「ぶぅ。」
「貰ってくれないの?」
「ぶぅぶぅ。」
「ねぇ、豚さんになってないで、貰ってよ。」
「ぶぅぶぅぶぅ。」
「拗ねないでさ。捜した訳じゃなくて、偶然見つけただけなんだ。今度、君が偶然、素敵なものを見つけたら、いつでも俺にプレゼントしてくれて良いから。」

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