坂道では自転車を降りて

 彼女はちらりと俺の顔を見た。
「ね。」
 それでもしばらく逡巡していたが、ここで意地を張るのも馬鹿らしいと思ったのだろう。渋々と言った感じで赤い包みを手に取った。戸惑い気味でいつまでも見つめているから、「開けてみて。」と促した。クリスマスカラーの派手なラッピングは彼女にあまり似合わない。早く中を見て欲しい。

中身を目にすると、彼女は笑顔になった。
「ペンケースだ。この色、素敵。形もちょうど良い。」
「だろ?クリスマスが終わったら売り場から消えちゃうと思ったら、焦って買っちゃったんだ。」
「私がこの色好きなのどうして知ってるの?」
「もう1年だぜ。それくらい分かるよ。」
「ありがとう。嬉しい。」
「よかった。使って。」
「うん。使う。ホントに嬉しい。」

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