君色ドラマチック


母は結婚式用のお呼ばれ服は、レンタルでじゅうぶんだと言いたかったんだろう。

でも、これでもパタンナーの端くれですから。

作る側からすれば、服を買ってもらえないと困る、とか余計なことを考えてしまう。

いっそ、すごく気にいるものがあるといいな。

気分を上げてくれるような、素敵なものが……。

そう思って電車に乗り、はたと気づいた。

ひとりじゃ選べない。

黒か紺かも、私にはわからないんだから。

そんな重要なことを忘れていたなんて、なんてマヌケなんだろう。

思わず電車の中、ひとりで苦笑しそうになった。


結城に出会う前は母が、そのあとには結城が、必ず洋服を選ぶときにはついていてくれた。

店員さんを頼るのもいいけど、彼女たちは商売だから、似合わないものも似合わないとはっきりは言ってくれないから。

それに、ひとことでピンクだと言っても、赤みがかったピンクと、青みがかったピンクとでは、肌の色によって、顔色の見えかたが全く違う。

そこまで説明してくれる販売員は、なかなかいない。

まあ……仕方がないか。今日は下見ってことでいいや。

今度、母が暇な時に一緒に来てもらおう。


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