君色ドラマチック


目的の駅で降りると、ふうと息をついた。

ちょうど仕事が終わる時間帯だからか、街には人が溢れかえっている。

同じような色の建物。

同じような色の服を着た人たち。

夕日に照らされたそれらは、すべてが同じ色に見えた。

どこまでが空で、どこからかビルで、どこからが道路かもよくわからなくなりそう。

世界が全て、一色で塗りつぶされていく……。


頭痛がしたような気がして足元に視線を下ろすと、自分の影だけが黒々と、アスファルトに伸びている。

このままじゃ、影に吸い込まれてしまいそう。

どうにも落ち着かなくなり、バッグからスマホを取りだす。

母に迎えにきてもらおうと、自宅の番号をタップしようとした、そのとき。


「慧……!」


背後から聞きおぼえのある声がして、ハッとする。

振り向いちゃいけない。

全身が震える。

ここで振り向いたら、決心が鈍ってしまう。


「慧!」


もう一度、私を呼ぶ声。

近づいてくるブーツの足音が、早くなる。

もうダメだ。

こんなときに現れるなんて、ずるすぎるよ。


そう思っているのに、体はそんな意志を無視し、声のした方に助けを求めて動いてしまった。


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