有害なる独身貴族
「……そんなの、酷い」
茜さん一人に、何もかも押し付けられているんじゃないの。
「茜が納得してんだから、こっちがどうこう言うことじゃねぇよ」
でも、子供を育てるのは大変だ。
うちは両親揃ってさえ、私のことを邪魔扱いした。
なのに、茜さんはあんなふうに笑える。
気がつけば唇を噛み締めていた。
胸の奥が痛い。
傷口が空気に触れた時にみたいにヒリヒリする。
なんだろう、この気持ち。
羨ましい。
誰が? 何が?
“母親”としても“女”としても魅力的に生きる茜さん、あんな女性になれることが羨ましい。
そして、彼女に愛される浅黄くん。
オドオドしていても、そのママに受け入れてもらえる彼。
あの二人の関係が羨ましい。
浅黄くんが羨ましい。
そして、茜さんが羨ましい。
――だって、彼女は店長からも愛される。
「……っ」
泥臭い感情を押さえ込みたくて、口元を手で抑えた。
私は誰にも愛されない。でも本当は愛して愛されたい。茜さんみたいに。
誰かから、心底必要とされたい。
浅黄くんのように、深い愛情を持って抱きしめられたい。
私には、もう無い。
そう思って諦めていたすべてのものを持ってるあの親子のことを考えると、モヤモヤする。
私の全身が汚い色をした羨望で塗り固められていくよう。
諦めたはずだったのに、今更こんなさもしい感情にさいなやまされる自分がとても嫌だ。