有害なる独身貴族

茜さんの手が、私の目にかかっていた前髪を撫でた。
視界が開けた感覚がして顔を上げる。
茜さんが穏やかな笑みを見せていた。


「……でも、浅黄がいなきゃもっとダメになっただろうと思うのよ。……楽はできても、真人間にはなれなかったんじゃないかしら。まあ今が真人間かって言ったら違うかもしれないけどね」

「茜さんは素敵ですよ。凄いって、私思ってます」

「そう? ありがとう。でもそういうふうに思ってもらえるのも、きっと浅黄のお陰なのよ。私、もともと、無計画で、行き当たりばったりな人間だもの」

「そう……ですか?」

「そうよ。あの子がいるから、いろんなことしっかりしなきゃって思えるの。好きか嫌いかなんてゆっくり考えたこともなかったけど、私は浅黄がいてよかったって思う。だから私はあの子が好きなんだと思うわ」


やっぱり私の母親と茜さんは違う人種なんだろう。
母は私が嫌いだったんだから、比べること自体間違っているのかもしれない。

でも、違うからこそ、茜さんが今でも一人なことには疑問がある。

こんなに素敵な人なのに、店長は好きにならなかったの?
結婚しようって思わなかったの?


「なんで……店長と、結婚しなかったんですか?」


疑問が、口をついて出てくる。

茜さんは驚いたように私を見つめた後、ニッコリと笑うと、「つぐみちゃん、お見送りしてくれる?」と腕を掴んだ。

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