有害なる独身貴族
「え? はい」
「光流くん、つぐみちゃんちょっと借りるわよー」
訳も分からず、店の外に引っ張りだされて私は何も言えなくなった。
生暖かい風が、茜さんの長い髪を揺らす。
茜さんは店の裏路地へと私を引っ張りこんだ。
「今日はなんか変よ、つぐみちゃん。今まで私にそんなに興味なかったわよね、あなた」
「すみません」
「私が母親だったのがそんなに意外?」
確かに意外だった。
でもそれよりもずっと堪えたのは、シングルマザーなんて状況で、子供を愛せる姿に驚愕を覚えたからだ。
私は捨てられたのに、浅黄くんは愛される。
その違いって何?
「……私、両親と上手くいってなくて」
茜さんの視線が刺さる。私の告白を、無表情に見つめている。
「私ができたから結婚したんだそうです。でも二人は喧嘩ばかりで、結局私が十歳の時に離婚しました。母は、父に似た私の顔が好きじゃないとよく言っていて、……だから、なんていうか、気になって」
「……あなたのお母さんと私は同じじゃないわよ。私は彼と結婚なんてしなかったし、浅黄の顔は大好きだわ」
「ですよね。……すみません」
「あなたの境遇に同情はするけど、私は自分の事で手一杯なの。あなたを助けるようなことは言えないわ。……でもね、安心させてあげることはできるかな。橙次とは結婚なんてしないわよ」
「え……」
ホッとした声が出たのが、自分でもわかった。