有害なる独身貴族

きっと、茜さんは店長を好きだった時がある。
でももう乗り越えてる。そういうことなんだ。


「ね、つぐみちゃんはどう? 橙次といて幸せだって思う?」


幸せどころか。
彼がいてくれるだけで私は救われてる。


「……はい」


小さな頷きは、振り向いた茜さんの視線に捉えられた。


「なら告白しちゃいなさいよ」

「それは……無理です」


茜さんは困ったように小首をかしげた。


「ね、あなたはどうなりたいの? 橙次の恋人になりたいんじゃないの?」

「私は、……ただ、店長の傍にいたいだけなんです。恋人じゃなくていいんです」


従業員でいい。他人のままでいい。
ただ、一生嫌われないまま、傍にいたい。
私の人生からいなくならないで欲しい。


「なんか、面倒くさいわねぇ」


茜さんは両手を上げて、呆れたようにため息をついた。


「幸せになりなさいよ。知ってる? 橙次はいつもそう願ってる。あなたのこと、とても気にかけてるの。なんでなんだろうってずっと不思議だったけど。今日の話を聞いて納得だわ。あなたの過去のこと、橙次は知ってるのね?」


過去……。

再会してからの片倉さんに語った過去は、大好きだったおばあちゃんが一年前に死んだってことだけだ。
でもそれだって、最近教えたことだし。

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