有害なる独身貴族
もしかしたら、十三年前に自殺しようとしたあの少女が私だと気づいている?
片倉さんは私のことを覚えているの?
「……分かりません」
「まあいいわ。私そろそろ行かなきゃ。……私が言ったこと、忘れないでね。幸せになりたかったら、自分と一緒にいて幸せだと思ってくれる人と一緒になればいいのよ。橙次が好きなら、橙次に幸せだなって思わせてあげればいいんだわ」
自分にそんな力はない。
だからそれは難しいと思うのだけど、茜さんの気持ちは嬉しかった。
「はい。……ありがとうございます」
「じゃあね、つぐみちゃん」
魅惑的な笑顔を残して、彼女は身を翻す。
ヒールの音を鳴らしながら歩く茜さんは、、自分の足で立って生きている大人の女性だ。
たまらなく湧き上がる尊敬の念を、どう表現していいか分からなくて、私は彼女の姿が見えなくなるまで頭を下げた。