有害なる独身貴族
テーブルセッティングを終え、二人の傍に向かう。
「まあいい。そろそろ時間だ。光流、準備頼む」
「はい。房野、手伝って」
「はい!」
店長の声に背筋を伸びる。大きく息を吸い込んで気合を入れた。
*
「いらっしゃいませ」
入り口で数家さんがお迎えして、私が席まで誘導する。
最初にいらしたのは、いつも通り一番の古株の北浜さん。
「やあ。つぐみちゃん、元気かい?」
「はい。北浜さんもお元気そうで何よりです」
北浜さんは常連で、店にも月に2、3回は来てくれる。
スーツが似合う五十代後半くらいのおじ様で、店長と個人的に仲がいいという話だけど、あまり話しているのは見ない。
「今日作ってるのは片倉?」
「はい」
「そうか。楽しみだ」
モニター契約をしてもらってる人には、最初に簡単なパーソナルデーターを教えてもらっている。
名前、住所、生年月日、職業、好きな食べものの例、など。
まあ、自己申告なので偽装があってもわからない。
事実、この間までモニターをしてくれた徳田さんも、会社名を偽装していたりもしたのだけど。
今回、それを初めて見せてもらったのだけど、何故か北浜さんのだけがなかった。
数家さんに確認しても、「店長が、北浜さんのはいいっていうんだよな」と言われてしまった。
一番の古株さんに、今更書いてもらうわけにはいかないってことなのかな。