有害なる独身貴族
ギュウと抱きしめられる。
たとえ娘みたいに思われているのだとしても、嬉しかった。
こんな風に優しくしてもらえるなら、傍に入られるなら、このままでもいい。
数家さんの後押しを台無しにするようなことを思いつつ、片倉さんにしがみついた。
触れた彼の服は湿っぽかった。それに汗臭い。
私が店を飛び出してから既に三時間は経っている。
どれだけ走って探した?
どれだけここで眠ってた?
こんなんじゃ本当に風邪を引いてしまう。
「……死んだらどうしようって思ってた」
「え?」
「どこ行ってたんだよ。誰かに何かされたわけじゃないよな。なんか綺麗だけど……」
吐き出した声は熱気がこもっていた。
呼吸もどことなく荒いような気がする。
じわりと湿った服越しに感じる心音に耳を澄ますと、半端無く早い。
「片倉さん、もしかして、熱……」
言った瞬間に、ズルリと彼の体が崩れる。
驚いて起こすと、熱い息を吐き出しながら片倉さんが苦笑した。
「帰るよ。タクシー呼んで」
「何言ってるんですか。無理です。入ってください」
「いいって」
私を押しのけ、彼は立ち上がった。
「つぐみが無事なのを確認したかっただけだ」
そして私に背中を向けよろよろと歩き出す。
どうして?
私の事、心配するだけして、どうして私には心配させてくれないの。
娘みたいなものだから?
やっぱり嫌だ。
大事にされるだけじゃ、嫌だ。彼に届きたい。当たり前に心配を受け入れて欲しい。
私の中で何かが切れた音がした。
渾身の力で彼を引っ張り、ほっぺ目がけて平手打ちをかます。