有害なる独身貴族

 とは言え、頭を冷やせるほど外の風は涼しくない。熱気から近くの居酒屋の油の匂いが広がっている。
顔をしかめると、片倉さんが風下に私を連れてきた。


「……光流に怒られちまったな」

「なんか、すみません」

「つぐみのせいじゃねぇよ」


彼は気持ちを入れ替えるように、伸びをして深呼吸をし、「ま、確かに余裕はなかった」とボソリと告げる。


「ところで、じいさんに連絡とったのか?」

「いえ、まだです」

「とっととしろよ。電話貸そうか」

「や、あの。手紙にしようかと思って」


一年も音信不通にしておいて、いきなり電話をするのは勇気がいる。
それに、もし電話にお父さんの新しい奥さんが出たら気まずいし。


「店の封筒使っていいぞ。早く書けよ」

「なんでそんなに急いでるんですか」


こっちは心の準備が追いつかない。
急に焦ったみたいに色々急かすのはどうして?

責めるように見つめてみたら、片倉さんが気まずそうに目をそらした。
彼の服の裾を掴んで軽く引っ張る。


「教えて下さいよ」


お願いはそれなりに効果があるらしく、片倉さんはしぶしぶといった体で話し始めた。


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