有害なる独身貴族


 それから数日後。
よりにもよって夜の部の忙しい時間に、その人はやってきた。

扉が開いた瞬間、一番入り口近くに居たのは私だ。


「いらっしゃい……」


ませ、まで言えずに、私は息を止めてしまった。


「つぐみ」


そこには大柄な男の人が、右手に封筒を握りしめて立っていた。
私とよく似た、丸顔に丸目の年齢より若くみえる童顔。以前に比べてトップリと太ったその人は、私の父だ。


「お父さん」

「なんだ、これは」


ここが、店であることも考えずに、父は握りしめた封筒を突き出し、怒りを露わにする。

入り口付近の席でざわめきが湧き、数家さんが空気を察してやって来たので、私は慌てて父を追い立てた。


「お父さん、ここは職場だから。話なら外でしよう」


私は数家さんに「ちょっと抜けます」と告げ、父の背中を押すようにして店を出て、脇の路地へ入った。


表通りが綺麗で華やかなのに比べて、脇路地は全体的に薄汚れている。
父親は嫌そうな顔で周りを見回し、苛立ちを隠そうともせず、私にもう一度問いかけた。


「どういうつもりだ。なんで今更こんな手紙をよこした」


宛名はおじいちゃんにしたはずなのに、封が開けられている。


「おじいちゃんは見たの?」

「見せてない」

< 198 / 236 >

この作品をシェア

pagetop