有害なる独身貴族


「ほら、その顔だよ。お前、ガキの頃から、俺達の事をバカにした目つきで見てる。だからあいつだって……俺だってできればお前のことは引き取りたくなかったんだ。もう二度とこんな手紙……」


お父さんの声が途中で止まる。
何事かと思って後ろを見たら、片倉さんが裏口から出てきていて、こちらを睨んでいた。


「なんだ、あんた」

「片倉橙次と言います。ここの店主です。あなたは? つぐみのなんです」

「オーナーさんか。つぐみは俺の娘です。娘がいつもお世話に……」


型通りの挨拶が、途中で止まる。私も驚いて息をのんだ。
片倉さんが、私をいきなり抱き上げたからだ。

片腕で私の膝の裏を抱え、小さい子を抱き上げるように持ち上げる。
「捕まれ」と小声で言われたので、素直に首に手を回すと、腰の辺りをギュッと抱き締められた。

片倉さんは父に向き直ると、低く通る声で薄笑いをした。


「父親? 戸籍ってのは面倒なものですね。あなたにはどこにも父親の要素が無いのに、戸籍が縛るからあなたをないがしろには出来ないんだ。……さっきの話、聞いてました。あなたがつぐみと関わり合いたくないなら、俺に全部ください」

「は? なんだ? お前」

「つぐみと付き合っています」


父は、目を見開いて私と彼を見比べる。
若いうちにできちゃった結婚をした父は、今四十五歳だ。見た目には片倉さんとそれほど変わりはない。


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