有害なる独身貴族
「は? おい、アンタ俺とそう変わらない歳だろ? つぐみ、お前まさか、援交とかしてるわけじゃないだろうな」
お父さんが伸ばした手を、片倉さんは弾き返した。
「つぐみを侮辱するな。要らないんだろ? だからさんざん放っておいた挙句に、せっかくつぐみが伸ばした手を弾き返すようなことを言うんだ。だったら俺が一つ残らず貰う。本人だけじゃなく、想い出も、戸籍も何もかも俺に寄越せ!」
空気がピリピリするほどの怒気を孕んだ声に、お父さんはたじろいだ。
「い、いいだろう。勝手にすればいい。そもそも連絡を取ろうとしたのはそっちだからな。俺に怒鳴るのはお門違いだろ。つぐみ、もう二度と連絡なんてよこすなよ」
「待って、お父さん。おじいちゃんに伝えてよ」
「じいさんはお前とは会いたくないだろうよ」
最後に見た、軽蔑の色を含んだおじいちゃんの瞳。
思い出したら体がすくんで、次の言葉は出なかった。
そのままお父さんは踵を返して走って行ってしまう。
「……大丈夫か?」
片倉さんはゆっくり私をおろして、私の顔を撫でた。
私以上に傷ついた顔をしていて、心配になる。
「凄い親父だな。……悪い。俺が連絡取れだなんて言ったからだな」
「いいえ。お父さんには今更期待なんてしてないし。でもおじいちゃんに、渡して貰えそうも無いです」
「そうだな、あの調子だと。……仕方ないか、それはまた考える。それより」
次の瞬間、もう一度片倉さんに抱き上げられる。私が見下げることなどあまりない彼の顔。
歳相応の少し皺のよった目元から、私を射抜くような真摯な眼差しが放たれる。