有害なる独身貴族
「了解です。じゃあすぐできますね。日程は? 六月二週目か三週目かですね。夏のメニューだから七月にはだしたいし」
「そうだな。意見聞いて変更してチラシ作ってだから二週目にすっか。案内も急げばギリ間に合うだろ。事務所でやれよ。放っておくとあいつ、いつまでも休む気無い」
「あいつって房野ですか? 相変わらず過保護だなぁ」
話が私のことになったみたいだ。
思わず動きを止めて、聞き入ってしまう。
「ちょっと風邪気味みたいなんだよ。悪化させるとまずい」
「房野だって大人なんですから、酷ければ自分で言ってくるでしょう」
「……言わねぇよ、あいつは。倒れる直前まで平気な顔してるぞ、絶対」
言い切り型の店長の語尾に、ドキドキする。
確かに言わない。言って迷惑かけるのが嫌だ。
なんで店長は、私の事がそんなに分かるの?
「心配なら心配って言えばいいでしょうに。店長はたまに面倒くさいですよね」
くすくすと小さく笑う声が近づいてくる。
数家さんがこっちに来そうなので、慌ててレジの方に向かった。
聞き耳立ててたのバレたら大変だもん。
「房野、お疲れ」
「お、お疲れ様です」
数家さんが身を乗り出すようにして、レジカウンターを覗き込んだ。
うわあ、私、今変な顔してないかな。まだ心臓のドキドキが収まらない。
「店中綺麗になってるな、ご苦労様。試食会の打ち合わせしたいから、店内セッティング終わったら、事務所に来てくれるか?」
「はい」
さすが数家さん。
頑張ったところを上手く褒めてくれるから、嬉しくなっちゃう。
さっきまでのドキドキが、もっと穏やかな安心感へと変わっていく。
こういうところが、好きなのかなって勘違いしちゃった所以なのかな。
小銭をチェックしてからレジを閉め、小物を綺麗に並べ直す。
待つ人のための席を綺麗に拭いて、掃除はだいたいおしまい。
雑巾やモップを片付けて、事務所へと向かった。