有害なる独身貴族
上田くんに支えられてタクシーにのり、彼が住所を告げる。
ナビが搭載されたタクシーらしく、『案内を開始します』という機械的な声がする。
運転手さんは「近くまで行ったらまた教えて下さいね」と穏やかにいい、車を走らせた。
気が抜けてしまったのか、熱が上がっている気がする。
私は全身の倦怠感に任せるがまま、窓ガラスに頭をあて、目を閉じていた。
「大丈夫ですか? 房野さん、俺の肩に寄っかかってもいいですよ?」
「うん。ありがとう。でも冷たくて気持ちいいからこれでいい。それより、ごめんね、上田くん」
「なんで謝るんですか」
「迷惑かけたし、店長とも揉めさせちゃって」
「店長はもともと俺には冷たいっすよー」
そういえば、気に入った奴は名前で呼ぶって言っていたけど、上田くんのことだけは名前で呼んでるの聞いたこと無いな。
「なんで冷たいの?」
「さあ。入ってすぐはそうでもなかったんですけど。確かに何度か大失敗はやらかしてますけどね。俺、そんなに接客態度悪いのかなぁ」
「そんなこと無いよ。最初にオタオタするのは誰でもだし、私だって入ってすぐは一杯失敗したもん。おんなじだよ。でも続けてたらちゃんと出来るようになるよ」
でも、私は当初から名前で呼ばれていた気がする。
店長は常に態度が不遜だから、特別違和感はなかったけど。
「房野さんいつも優しいっすよね。俺、店の中で一番房野さんを頼りにしてるんです」
「え?」
嘘。数家さんとか高間さんじゃなくて?
それはちょっと、……かなり嬉しいかも。