有害なる独身貴族
「あ、運転手さん、一度止めてください」
途中のドラッグストアの前で彼はそう言い、私をタクシーの中に残したまま、数分店の中に消えていった。
「お待たせです。一応薬買ってきましたよ。冷えピタと、ゼリー飲料。なにか食べないと薬も飲めませんしね。運転手さんお願いします」
どうやら、私のために水とかゼリーとか薬を買ってきてくれたらしい。
上田君って気が利くんだなぁ。しっかりしてるんだ。
やがて、少し眠ってしまったらしい。
気がついたら上田くんに肩を揺すられていた。
「着きましたよ、房野さん」
「……ん。あ、ごめん」
「毎度あり。お大事にね」
もうお支払いは終わっているのか、運転手さんは私が降りたのを確認すると優しい声でそう言ってくれた。
いくらかかったんだろう。
今月そんなに余裕無いから、次のお給料から差っ引いてもらおうかな。
「部屋、どこですか? 二階?」
「うん。ここでいいよ。ありがとう」
「ふらついてますよ。荷物もあるし、部屋の前まで行きますよ」
どっちが歳上だかわからないほど世話を焼かれている私。
情けなくなりつつ、部屋の前まで行って鍵を開ける。
「本当にありがとう。助かったよ」
「いえいえ。ちょっと重たいですよ。ハイ」
上田くんはドラッグストアの袋と一緒に小さなメモを差し出した。
「これ、俺のケータイ番号です。困ったらかけてください」
「え?」
「実は、こんなチャンスを待ってたんです。数家さんにも彼女できたみたいだし、今なら房野さん、俺のこと見てくれるんじゃないかなって」