有害なる独身貴族


それから、瞬く間に数日が過ぎていく。

私の体調はすっかり元通りで、接客に必死になったり、数家さんに試食会の進め方を教わったりしながら、気がつけば土曜日。

今日は昼出勤だ。
モニター試食会も来週に控えているので、アンケート用紙を作成しようといつもより早めに出勤したら、背の高いスタイルのいい女性を店の前に見つけた。

艶のあるマロンブラウンの髪は一つに結ばれ、つばの大きい帽子から一部分だけ見えている。
細身のデニムは小さなお尻をキュッと包んでいて、胸の辺りが窮屈そうな薄手のシャツに上からはUV対策のパーカーがはおられていた。

彼女は私に気づくと、手を振る。

え? 誰?
私の知り合い?

もう数歩近づいて、まじまじと顔を見る。
こんなに綺麗な人って……と思って気づいた。


「あ、茜さん?」

「なんで疑問形?」


笑うと、いつもの女性的な魅惑あふるる表情になる。
ああやっぱり茜さんだと、納得できるくらいに。

いつもが女っぽい格好をしているからか、今日みたいなスポーティな格好をされると別人みたいだ。


「いや、印象があまりに違うので、……今日はどこかに行かれるのですか?」

「ええ。橙次に頼んでいたもの取りに来たのよ。扉開かないだけどどうすればいい?」

「あ、鍵しまってます? すみません、今から開けます」


私は急いで裏口から入って、厨房に声をかける。

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