有害なる独身貴族
「じゃあ、シングルマザーなんですか?」
「そうよ。あらそんな顔しないで、つぐみちゃん。イマドキ珍しくも無いでしょう。それに、色々な人に助けてもらえてるから、大丈夫。ほら、こうして橙次は野菜も切ってくれるし?」
「材料代はとるぞ」
「もちろんよ」
私はどんな顔をしてたんだろう。
一笑に付されてホッとした反面、同情的な顔をしていたのだとしたら、嫌だなと思った。
同情って、同じ立場や下の立場からではしないものだ。
自分が彼女に対して無意識にでも優位さを感じたのだとしたら、私は嫌な子だ。
茜さんは私の葛藤になど気づかないようにカラカラと笑い続けている。
「今日はね、息子のクラスの親子行事なの。前日集まって野菜切りしまーすって言われても、私の仕事夜だもの、出来ないじゃない? 毎回不満言われるくらいなら、発注も野菜切るのも全部請け負っちゃったのよ」
「茜は負けん気が強すぎるんだよ」
「だって。親の振る舞いって全部子供に跳ね返っていくのよ。水商売してるのは暮らしていくためには仕方ないけど、余計なところで敵作りたくないのよ」
「困ったやつだな」
結構重たいと思える内容をサラリと語る茜さん。
ただ笑って話すその姿が本当に発光しているみたいにキラキラして見える。
茜さんが綺麗なのは、いつだって眩しいくらいに見えるのは、きっと彼女の内面が綺麗だからなんだ。
こんな人が“お母さん”なら、どれほど幸せなの?
喉元までせり上がってきた感情を、なんと呼べばいいのか分からない。
ただ、手を伸ばして茜さんに触れたいという欲求が湧き上がってきて、理性でそれをなんとか抑えこむ。