やさしい恋のはじめかた
そんなに周りに知られたくないのかな……。
考えたくないけど、考えないようにしているけど、3年も秘密にしていれば、そういう考え方が湧いて出ても不思議じゃないように思う。
そもそも、次元が違う大海と比べること自体、浅はかな行為だという自覚はある。
ただ、努力や根性や負けん気だけで自分の企画が採用されるかといえばこの世界はそうじゃなくて、だから自分の存在価値が見いだせない。
あっと人を驚かせられる発想力、創造力、大勢の人を一瞬で虜にできる圧倒的センス……そういった才能がなければ、同じ企画部内でも、他代理店とのコンペでも肩を並べて戦えないのだ。
「……よし、頑張ろ」
先週末、桜汰くんに切ってもらった前髪を一撫でして気持ちを切り替え、保管庫をあとにする。
散々後ろ向きなことを考えた、桜汰くんにも話を聞いてもらった、だからまだまだ頑張れる。
私は私で勝負しなきゃ。
今度こそ私の考えた企画を採用してもらえるように頑張らなきゃだし、外回りの稲塚くんが帰社したら、さっき大海が言っていたアドバイスをそれとなく伝える仕事も残っている。
落ち込む時間は、おしまいにしよう。
*
それから数時間。
カタカタとキーボードを打っているうちに、いつの間にかとっくに定時を過ぎていたらしい。
企画書を頭から練り直すためにデスクにかじりついているとポンと肩を叩かれ、そこで初めてフロアががらんとしていることに気がついた。