やさしい恋のはじめかた
するとその瞬間、むせ返るほど強く強く、桜汰くんに抱きしめられた。
背中からぎゅうぎゅうに締めつけてくる桜汰くんの腕の中は、苦しいけれど、それ以上に甘い。
両目からは自然と涙があふれ、それが桜汰くんのシャツにぽたぽたと染み込んでいく。
「……ありがとう、里歩子、ここまで歩いてきてくれて。俺のところまで歩いてきてくれて」
「ううん、ううん。私のほうこそ、待っててくれてありがとう……。その間も、ずっと髪を切っててくれてありがとう……」
言うと、首筋に埋められた桜汰くんの頭がふるふる揺れて、彼の毛先や無精ひげがそのたびに肌の上を撫でていった。
くすぐったくて、ドキドキして、ちょっとだけ気恥ずかしいその甘い刺激は、けれど、どちらかともなく唇を合わせる合図にすぎない。
「抱いていい?」
「好きにして」
それ以外に言葉なんて必要なかった。
しっかりと手をつないで向かった桜汰くんの住む部屋、シャワーもそこそこにベッドにいざなわれた私は、伸びた髪を愛おしそうに何度も梳き、そのたびにキスを落とす桜汰くんと、そうして肌を合わせた。
これが、私たちのやさしい恋のはじめかた。
たくさんの優しさの中でようやくたどり着いた桜汰くんのそばで、これからもずっと、髪を伸ばして。
*END*

