やさしい恋のはじめかた
 
「……嫌なのは確かだけど、本当はお見合いしないで断ってほしいなと思うけど、でも、大海の中ではもう答えが出てるじゃない」


そう言って、私は笑う。

上手く笑えているかちょっと自信はないけど、こうと決めたらテコでも動かないところがあるのが大海の性格だったりする。

それなら。


「部長の顔、立ててあげてよ」

「里歩子……」

「うん。私は大丈夫だから」


私が言えることは、これしかない。

たとえ私が『行かないで』と泣いて言ったところで、それでも私に大海の決断を覆させるのは難しいことだし、この決断に至るまで大海は十分すぎるくらい私の存在を尊重してくれた。

それだけで、もういい。


「悪い、里歩子……。完全に俺の力不足だ」


前髪をクシャリとしながらチビリと日本酒を口に含むと、申し訳なさそうに大海が言う。

力不足なのは私のほうだよ、大海。

誰にも言えない秘密の社内恋愛をさせているのは私、彼女がいることを理由にお見合いを断れず、部長に言葉を濁させてきたのは私。

私がもっと大海に釣り合う彼女だったら、実力もちゃんとあったら、きっとこのお見合い話はもっとシンプルに終わっていたはずなんだよ。


「力不足なんて、そんな……」


ふるふると首を振って料理に箸を伸ばす。

すぐに「冷めないうちに食べよ!」と明るい声を意識しながら大海を促すと、ようやく少しだけホッとしたような顔の大海と目が合った。
 
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