やさしい恋のはじめかた
そこでようやく、私は気付いた。
3年つき合っている情だとか、大海に釣り合うだけの実力が自分にないからだとか、そんなことを思ってみたところで、結局は私だって大海のことが好きで、一緒にいたいのだと。
もしも、お見合いの噂を耳に挟んだ時点で何かアクションを起こしていたら、逆プロポーズなんてことにはならなかったのだろうか。
もしもお見合いに応じていいかと聞かれたあの日、無様でみっともなくても『しないで』と懇願し、あのまま大海と過ごしていたら、こんなにも胸が苦しくなることもなかったのだろうか。
恋愛はタイミングだと聞いたことがある。
大海が何を考えているか分からないなら、待っていないで自分から聞けば良かった。
さっきの女子社員たちの噂話が本当のことでもガセでも、凛子さんみたいに私も『大海と結婚したい』と、そう言っておけば良かった。
大海に釣り合うだけの実力って、そもそも何なのだろう。そんなものに縛られていたから、大切なものを見落としてしまうんだ……。
後悔しても足りない気持ちはいつの間にか涙に変わり、私の頬をとめどなく濡らしていた。
いい加減泣き止んで早く戻らないと、堂前さんに任されているサポート業務の統括の仕事も滞り、私の指示を待つ後輩たちが困ってしまう。
だけど、でも。
「桜汰くん、私、どうしたらいい……?」
……助けてヒーロー。
涙はその後しばらく経っても止まらなかった。