やさしい恋のはじめかた
 
言いながら、頭の片隅では、だからなんでこの噂話を大海本人じゃなく桜汰くんにしているんだろう、って何度も何度も思った。

真相を確かめるためには大海と向き合う以外に道はないはずなのに、どうして桜汰くんのところに逃げてきちゃったんだろう……。


「……ねえ桜汰くん、私、どうしたらいいかな」


ゆらりと視線を上げて、桜汰くんを見つめる。

涙でぼやける視界の先でじっとこちらを見つめている桜汰くんは、けれど固く口を閉ざしたままで、答えを言ってくれる様子はない。

だけど、それは至極当然だ。

こういうことこそ桜汰くんに頼っちゃいけないのは十分すぎるくらい分かっていたのに、辛さに負けて吐き出してしまったのだから。


「ごめん、桜汰くんに聞くことじゃなかったよね。本当は私の中でもう答えは出てるの。桜汰くんに話して、いつもみたいに髪を切ってもらったら、ちょっとはスッキリするかなって。そう思って言ってみただけだから」


無言の間が怖くて、ヘラッと笑顔を作り、言い訳がましい理由をつらつらと並べる。

バカは私。

今日偶然耳に入ったこの新しい噂を聞いて、やっぱり私だって大海が好きなんだと思った。

一緒にいたいと思った。

その気持ちに嘘はなくて、その何よりの証拠が今もこうして両目から溢れている。

だけど。


「里歩子さ、前々から思ってて、言おうかどうかずっと悩んでたんだけど、今の仕事も今の彼氏も、里歩子には合ってないんじゃないの?」
 
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