やさしい恋のはじめかた
……でも、声が震えてしまったのは、きっと桜汰くんの言ったことが図星だからだと思う。
“自分を切り落とす”
今までの私はまさしくそれで、今日だって無意識のうちに髪を切りに来てしまったのだから。
弱くて、臆病で、だから本音を言えずに強がってばかりで、実体のない“大海に釣り合うだけの実力”に捕らわれて自分を見失い続けている。
そんな自分を切り落とすために。
桜汰くんに言われた通り、それだって大事な私の一部なのに、髪を切ればスッキリできるなんて、やっぱり私の誇大妄想だったのだろうか。
何も言えず、ぐるぐると思考を巡らせながら俯いて唇を噛みしめていると、コト、とレジカウンターにマグカップを置いた音がして。
それと同時に、桜汰くんがゆっくりとこちらに近づいてくる気配がした。
「なあ、そろそろいい頃なんじゃないの?」
「……い、いい頃?」
私の目の前にしゃがみ込み、下から見上げてくる桜汰くんに思わず聞き返せば、何秒間か何かをぐっと堪えるように目を閉じ唇を引き結んだ彼は、やがて意を決したように口を開く。
その目にはまだ少し迷いがあるようで。
けれど桜汰くんは真っ直ぐに私を見つめて言う。
「そろそろ、ほかに目を向けてもいい頃なんじゃないのって。仕事のことはともかく、一人で泣かせる彼氏より、もっと里歩子に合う男がいるんじゃないの? ……例えば、俺とか」