やさしい恋のはじめかた
 
呼びかけても、ただちらりと私を横目で見下ろし、わずかに口元をほころばせた大海は、深く煙を吸うと、空に向かってゆっくりと紫煙を吐き出す。

都会の夜空は明るく、星なんて少しも見えなかったけれど、その煙を目で追っていると、ひとつだけ星を見つけることができた。


『単刀直入に言う。俺の彼女になってほしい。返事は急がなくていいけど、できれば早いうちに。あんまり焦らされると、俺の心臓がもたないから』


そんなときにふいに落とされた、まるで業務連絡でもしているかのような淡々とした告白。

紫煙が漂っていった先の星を、綺麗だなと、ぼんやり眺めていた私の頭は、何を言われているのかすぐには理解できずに完全にショートした。

その張本人である大海の顔なんて、まともに見れるはずがない。

それからしばらく、私は、バクバクと体の奥で大きく鳴る心臓の音と、きゅーっと胸を締め付ける甘酸っぱい息苦しさの中で、ただただ、呆然と星だけを眺めていて。

そんな私の横顔を楽しげな雰囲気で見ている大海の視線が、やけに体の奥を疼かせた。


それは、ある初夏の日の、蒸し暑い夜のこと。

それから2週間後、考えに考えた私は、もともと彼に憧れて飛び込んだこの世界で起こった、奇跡のような大海からの告白を受けることにし、そうして今に至っている。





大海の言葉を待っていると、彼はまつ毛を伏せ、少し顔の陰影を濃くしながら、ぽつ、ぽつと口を開く。
 
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