やさしい恋のはじめかた
 
「あの頃の里歩子には、安心できる誰かがそばにいてやらないと、すぐに自滅してしまいそうな危うさがあったんだ」

「自滅……?」


不穏な響きと自分自身にはまったく身に覚えがない言葉に、思いっきり眉根を寄せて聞き返してしまう。

すると大海は、少しだけ笑って。


「里歩子自身は気づいていなかっただろうけど、仕事に没頭しているように見えて、実はとても追い詰められながら仕事をしていた。少なくとも俺にはそう見えてたよ。だから、精神的な支えになりたかったんだ。上司としてではなく、もっと別の形で」


そう言って、自分の太ももに肘を乗せ、私のほうに身を乗り出す。

それから、3年前を懐かしむようにゆっくりと数回まばたきをすると、男性にしては細く長い綺麗な指を組み、その上にトンと顎を乗せた。


「それまでは、単純に可愛い子だなと思ってたよ、後輩として。俺に憧れてこの世界に飛び込んできたって話を聞いたら、嬉しく思わないわけがない。里歩子は、仕事は真面目だし、よく気がつくし、淹れてくれるコーヒーも、いつも美味い。少し押しが弱いところもあるけど、何より、どんな仕事でも楽しそうにやっている顔が、ほかの後輩たちとは違っていたんだ。ああ、この子は育て甲斐があるなって。堂前とも、よく話してたんだよ。でも、」


そこでいったん言葉を区切ると、大海は私の目を真っすぐに見て、こう言う。
 
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