やさしい恋のはじめかた
「……、……うん」
一瞬にして私の頭をよぎった嫌な想像を即座に否定する大海は、どうしてもその場しのぎのことを言っているようには見えず、数瞬考えて、首を縦に振る。
そんな些細なことまで覚えているなんて、本当は私のことは好きじゃなかったのかもしれないと疑いたいと思っても、疑えるわけもない。
それに安心したように大海は深く息を吐くと、「始まり方は正しいやり方じゃなかったかもしれないけど」と話の続きを再開する。
「里歩子から返事をもらうまでの2週間は本当に緊張したし、付き合い始めてからもとても幸せだった。付き合って3年も経つのに、なかなかプロポーズできなかったのは、コンペで何度勝てなくても、里歩子がもう一回、もう一回って諦めずに頑張る姿を上司として応援したかったからだ。里歩子の力はこんなもんじゃないと思ってるのは、なにも里歩子ひとりじゃない。堂前も、俺も、稲塚だって、みんなみんな、里歩子は企画一本だけで終わる奴じゃないって思ってる」
「……、……うん」
「でも、恋人としては、間違ってたな……。俺は里歩子の不安を掻き立てるばかりで、思うように甘えさせてやれなかった。付き合ってることを秘密にし続けていたのには、里歩子が変にプレッシャーを感じたり、社内で浮いたりしないようにっていう俺なりの理由があったんだけど……それがただの俺の独りよがりだったってことも、里歩子に打ち明けられるまで気づきもしなかった」
「そんな……」
「挙げ句、もう結婚するなんていう根も葉もない噂でまで里歩子を苦しめて……。こんな男、もう里歩子のほうから振ってくれてもいいんだ」
「……大海……」