やさしい恋のはじめかた
--ああ、なんて私たちはすれ違ってばかりだったんだろう。
うつむき、指を組んだ手を額に押し当て、まるで懺悔するような格好でそうこぼした大海に、それ以上は言葉に詰まってなにも言えなかった。
お互いがお互いのことを思っていたはずなのに、私たちはいつの間に、背中を向け合ったまま、相手の気持ちを想像するばかりになってしまっていたんだろう。
いつから? どこから?
どこで大海に苦しいと甘えればよかった? どこでもっとお互いに本音を言い合えばよかった?
もし間違えなければ、今、こんなにも私たちの関係が危うくなってしまうこともなかったんだろうかと思うと、気が遠くなりそうになる。
「この際だから言ってしまうと、俺、その美容師の彼にずっと嫉妬してたよ」
「……え?」
すると、うつむいたまま大海が言って、その言葉に、はっと現実に引き戻された。
嫉妬なんて、そんな……。
つい数日前に告白こそされたけど、桜汰くんとは今まで、本当にただのお客と美容師の関係だった。
友だちみたいな感覚はずっとあったけれど、まして大海が疑うようなことは誓ってないし、桜汰くんに恋人がいた時期だってあったのに。
それがどうして、嫉妬なんて。
業界内では知らない人はいないほどで、ぜひ一度は一緒に仕事をしてみたいとオファーが途切れることのないほどの圧倒的存在感を放つ〝幻泉堂の河野大海〟ともあろう人が、なぜ……。