やさしい恋のはじめかた
そう思いながら目の前の仕事に没頭する日々は、本当に目まぐるしく、恐ろしくあっという間。
いよいよ撮影本番となり、その日になって久しぶりに現場でヘアメイクの仕事をする桜汰くんを見てやっと、そういえばあれから一度も会っていなかったことを思い出したくらい、忙しいものだった。
「里歩子、久しぶり。あれから二ヶ月弱だけど、元気してた?」
「……ああ、うん。このとおり、元気。……桜汰くんは?」
「俺もこのとおり。それにしても驚いただろ。実は俺、けっこう有名だったりするんだよね」
「ほんとだよ。桜汰くんの名前を見たとき、目玉が飛び出るかと思った」
「はは」
ヘアメイクが終わり、今は撮影の真っ最中。
スタジオの隅っこのほうで撮影の様子を眺めていると桜汰くんがすっと私の横に並び、本当に久しぶりに会話をした。
今、桜汰くんも言ったけど、こうして会うのは、あれから二ヶ月弱ぶり。
頭の中には仕事方面とはまた別に常に桜汰くんの存在があって、髪を伸ばしはじめたことくらいは言っておいたほうがいいんじゃないかと考えていたけど、実際は行動に出る余裕もなく、仕事や自分のことでいっぱいっぱいだった部分もあって、結局おざなりになってしまっていた。
撮影になれば必然的に桜汰くんに会うことになる、という甘えも、連絡を取っていなかった理由として大きい。