やさしい恋のはじめかた
……理由なんてわからない。あるのかどうかさえ、はっきりしない。
それでも、どういうわけか胸が疼く、もし桜汰くんに髪を切ってもらえなくなったら私はどうなるんだろうと不安に駆られる。
誰も桜汰くんを好きにならなきゃいいのに、ずっと私を好きでいてくれたらいいのにという感情がどんどん自分の中に流れ込んで、髪を直してもらっている女性タレントが桜汰くんと親しげに話す姿さえ、もう視界に捉えてはおけなくなった。
これは依存心から沸く感情? それともべつのもの?
また頭を抱えてその場にうずくまりたくなって、代わりに外の空気を吸いにスタジオを出る。
おかしい、おかしい。
こんなことは10年の長いつき合いの中で今までなかったのに、初めて現場でプロとして仕事をしている桜汰くんを目の当たりにして衝撃を受けたからって、急にこんな……まるで嫉妬や独占欲のような気持ちになるものなの?
仕事の顔になった桜汰くんに胸がドキッとしたのは確か。
本気の顔を格好いいと思ったのも確か。
でもそれは、一緒に仕事をしてきた中で何度となく大海にも感じていたもので、桜汰くんに関しては初見だからとか、そういうのはまったく関係なく、そう大差はないように私には思える。
それにそもそも桜汰くんと大海は違う人間で、比べること自体、おおいに間違っている。
桜汰くんは桜汰くん、大海は大海として考えなければ、答えだって見えてくるはずもない。